Ⅱ 精神科学自由大学とアントロポゾフィー運動

出典:Die Freie Hochschule für Geisteswissenschaft Goetheanum, Zur Orientierung und Einführung, 2008 Dornach, S.23-30

訳:石川恒夫

II 精神科学自由大学とアントロポゾフィー運動

ボドー・フォン・プラトー
Bodo von Plato

「アントロポゾフィー運動」という呼び方はヴァルドルフ学校、アントロポゾフィーの病 院施設、バイオ・ダイナミック農場などのように、世界中に見られる、アントロポゾフィー をインスピレーションの源とする施設やイニシアチブの活動に対してしばしば用いられて います。ルドルフ・シュタイナーが生きていた時代におけるアントロポゾフィーの発展を 見ていくならば、このアントロポゾフィー運動は四つの異なる段階に分けることができる でしょう。この段階は同時に、四つのアントロポゾフィーの異なる現実的視点をもっており*1、精神科学自由大学の決定的な三つの基本モチーフを反映しています。その共演が特 別な質を形成しているのです。

*1ルドルフ・シュタイナーはアントロポゾフィーの発展における三つの段階についてしばしば語ってお り、ここで最初の段階として記述した部分を特に分離して数えてはいない。参照「アントロポゾフィーの共同体形成」(GA257)、「アントロポゾフィー協会との関係におけるアントロポゾフィー運動の歴史と条件」(GA258)

1.アントロポゾフィーの四つの発展段階

アントロポゾフィーの四つの発展段階は、アントロポゾフィー運動のしだいしだいに広が る表現形式として特徴づけられるでしょう。
1902年までにルドルフ・シュタイナーは人間と世界をスピリチュアルに認識するために認 識論、知識学の基本を発展させました。特に「自由の哲学」(GA3)、「真理と学問」 (GA4)の著作がこの時期、第一期を代表しています。それらは人間の責任を自己と世界 に対して中心に据える、思考と倫理的個体主義を顧慮していく一つのパラダイムの変換を 記述しています。これらの著作は、それに呼応する思考活動によって意識化されうる精神 的衝動であり、アントロポゾフィー運動の哲学的表現であります。
1902年から1909年までの第二期においては、ルドルフ・シュタイナーのエソテリックな活 動が発展の前面に出ています。その証が「テオゾフィー」(GA9)、「いかにしてより高 次な世界の認識を獲得するか」(GA10)、「より高次な認識の階梯」(GA12)、「神秘 学概論」(GA13)に特に表れています。ここでシュタイナーはスピリチュアルな、霊的リアリズムを記述し、構築することによって、アントロポゾフィー運動は瞑想的な道として 広がりを見せることになります。誰もが内的文化の個人的育成によってこの瞑想の道を実 現することができるのです。この修業の道は、人間の自己を見定める力を具体化すること を目指しており、人間であることの意識を拡大することを目指すものです。同時にそれは 精神界についての学問の基礎付けでもありました。

1910年から1917年にアントロポゾフィー運動は第三期を迎え、特に芸術によって、まず1910~13年におけるミュンヘンでの「神秘劇」の上演、オイリュトミーの誕生(1912年)、そして「ことばの家」としてアントロポゾフィー運動が公的に目に見えるようにな る第一ゲーテアヌムの建設(1913~1920)によって顕現されていきます。さらにルドル フ・シュタイナーは1911年にスピリチュアルな社会衝動として理解される「テオゾフィー の本質と芸術のための協会」を創立する試みをしています。まずは失敗に終わったこの試 みの基本的要素は、1923年のクリスマス会議における普遍アントロポゾフィー協会の設立 において再現されます。最初のアントロポゾフィー協会の創設もこの時期、1912/13年の ことでした。

1917年の「魂の謎について」(GA21)の出版をもって、アントロポゾフィーの発展にお ける第四期が始まります。ルドルフ・シュタイナーは30年間に及ぶ霊的探求の成果につい て語り、それがこの時期に表出されます。シュタイナーはこの著作において、三つに分節 された人間の有機体についての見方を披露しています。この見解及び特定の研究及び生活 領域のための数多くの講座、講演がアントロポゾフィー運動の新しい広がりに至ります。 つまり、教育、医学、農学、社会生活などにおける、精神的リアリズムの基盤に立った実 践的・職能的生活を可能にするイニシアチブが生まれてくるのです。アントロポゾフィー は日々の生活実践の領域で作用することを始め、アントロポゾフィー運動は一般社会にお いて、霊的・精神的に模索しつつ貢献するものへ展開していきます。ここではじめて、通 常「アントロポゾフィー運動」と呼ぶものが生まれるのです。

2.精神科学自由大学の基本モチーフ

1923年のクリスマス会議における普遍アントロポゾフィー協会の設立において、ルドルフ・ シュタイナーはアントロポゾフィー運動のこの4つの観点を総括しつつ、そこに「精神科 学自由大学」というひとつのフォルムを与えています。この大学をシュタイナーはアント ロポゾフィー協会の「魂」と呼び、普遍的・人間的なものの文化に貢献すべきものであるとみています。アントロポゾフィー運動とアントロポゾフィー協会はこのあり方において 一つの統一体となるでしょう。大学の三つの基本モチーフはこの観点から以下のようにみなされます。
精神科学自由大学は、その弟子が指導者(マイスターないしは秘儀参入者)によって招聘 されるのではない最初のエソテリックな学校(シューレ)です。むしろ、未来の弟子の側 で、個的精神文化を発展させるために自己の責任を発見することが問題なのです。この発 見と、そして魂の修業と瞑想的実践を伴うそれに続く体験が、大学における協働への関心 へと導くことになります。〔大学の〕代表者との対話において、大学における会員である ことが理にかない、生きるに値するものかどうかが見出されなければなりません。ここで アントロポゾフィーのはじめの二つの発展段階との関係は明白でしょう。つまり自由の力、 自己認識及び自己規定するための力と、瞑想的な道を実践することが、大学へ入るための 決定的な前提となるのです。

第二番目の基本モチーフは、精神科学自由大学が一方では、真に霊的な発展の次元をその 仕事と課題の中心に据えている限り、オクルトな、エソテリック(秘教的)な施設であり、 他方で同時に公的な施設であり、なんでも秘密にしておこうとする機関であるべきではない、という事実にあります。このことは第一ゲーテアヌムが「ことばの家」として目に見 える形でドルナッハの丘の上に建設されたように、エソテリックな運動としてのアントロ ポゾフィーは公的に目に見えるようになるという、発展の第三期に対応するものです。この「ことばの家」は誰もが魂の内面によって構築されうるものです。20世紀の始まりとと もに、透明性と公開性の原理は社会生活においてますます重要な意味をもつようになりま した。内的文化に目を向けても現代人は公開の次元に付与するように求められています。 このことは決してこの内的文化の公開を意味するのではなく、その実践を世界において、 世界に対して責任を担うこと、日々の生活のために有効なものにしていくことが問題なのです。精神科学自由大学は、この願いを結びつける人間の共同作業のためのひとつの機関 としての形式を提供しているのです。

最終的に精神科学自由大学は個人的なエソテリックな発展のためにだけ寄与するものではありません。その公的なもしくは文明に対する課題を担う意味において、大学は、普遍的・ 人間的なものの発展と深化を、世界へ向かう生活態度の中に努力し求めていこうとするひ とつのイニシエーション〔秘儀へ〕の道を擁護します。そこにこそ職能的秘教に対する基 本要素があります。大学を包括的に構成する各専門部門は、この職能におけるエソテリッ クな様々な作業形式を発展させています。部門における、また部門同士の協働による専門 能力の深化と拡充は、霊的な研究共同体の形成を目指しており、そこから個人はアントロ ポゾフィーを時代に即した生活の中で実現し、代表することができます。これはアントロポゾフィーの発展の第四期に対応しており、市民生活に生き、そしてそこから作用を及ぼす存在となるのです。

3.精神科学自由大学の特徴とその生活条件

この意味において精神科学自由大学の特徴とその生活条件を包括的に記述してみましょう。
精神科学自由大学は個体の自由な自己規定と個人の瞑想的文化の上に構築されます。大学の会員になることを決断する人は、アントロポゾフィーをよく学びつつ、その人に応じた方法で、指摘された基本文献を読んでいることです。精神科学の学び、そして特にその瞑 想的な深化は、精神的潮流としてのアントロポゾフィー運動とのまったき個的結びつきの ための前提をつくりだします。大学との結びつきはつまり、まずは個人的な発見ですが、 個人の自由な決断へ至り、内なる瞑想的訓練の実践において実現されていきます。

精神科学自由大学は公開されており、その会員の共同作用によって構築されます。アント ロポゾフィーの発展はその本質によって、自己責任のみならず、時代の状況と同時代人に 対する関心と連帯責任をも呼び起こします。アントロポゾフィーによって仲介される瞑想の態度と実践は、ごく内的なものではありますが、決してプライベートな事柄ではありません。それは瞑想する人を精神界に対する全く個的な関係に据えつつも、地上的な現代文明とのこの関係に呼応した連関に立てるのです。大学は二つの世界にむけて実践をとおし て奉仕したいのです。そのための基盤は、会員の共同作用です。したがって大学への入会 も、大学と結ばれていると感ずる他者と結びつきを保とうとする心持ちに規定されていま す。公開されたエソテリックな学び舎(シューレ)の特性を保証するために、大学の協働 者及び大学運営の責任を担った理事会には、作業の方法、協働作業の形式、目的、意図、 成果を目に見えるようにし、後づけできるようにすることが問題となります。

精神科学自由大学は職業生活における精神的な方向付けとアントロポゾフィーの代表者であることを支援する課題を担っています。生活実践と職業生活の自由大学への統合、及び 自由大学での研究の職業生活と生活実践への統合は、とりわけ専門的な部門活動によって生じます。この視点は重要な意味をもっています。なぜならそれによって「瞑想の生活」 と「活動の生活」の交わりが実現されるからです。この事実は相互信頼に基づく協働を要 求します。共に働くとは、関与する人々のなかで、規準的または位階的秩序なくして互い に折り合うことです。この事実はまた個々の生活・作用領域におけるアントロポゾフィー の実りある効能を取上げるべく、研究共同体の形成を要請します。このことは特に職業に 限定されない普遍的・人間的な修養にとっても同様であり、普遍アントロポゾフィー部門では、益々すべてが専門分化してしまう現代にあって、この普遍的・人間的な ものを注視しています。そこから大学会員には、その中心に普遍的・人間的なものの擁護 を据えようとするアントロポゾフィー協会に対する責務が心臓に宿ることでしょう。霊的 な方向性をもった責務を担うことこそが、現代にあって精神科学自由大学における特徴的 なことです。アントロポゾフィーの代表者であることはこの意味において、大学会員に対 する第三の条件です。

4.現代的な組織形態と自由大学の課題

20世紀後半における発展は、精神科学自由大学がアントロポゾフィーのイニシアチブに基 づく仕事とある疎遠関係に至っていることを示しています。大学は「第一クラス」における学びと生活と同一視されてきたし、今日なおそう見られており、専門職を念頭に置いた 部門活動はさほど意識されていません。第一クラスだけが大学なのではありません。その 内実との結びつきから生まれてくる生活が、ある意味大学の精神的心臓を形成するのであり、専門の部門活動とその効用によってはじめて、全体になるのです。1970/80年代にお けるアントロポゾフィーに根差した職域(教育、医学、農学、治療教育、社会セラピーな ど)の世界的な発展、広がりが1908年代の終わりとともに、大学の部門における仕事の変 化と強化へ至りました。普遍的アントロポゾフィーの中心テーマである瞑想の実践、人間学、再生とカルマ、キリスト論、ヒエラルヒア論が、特に「普遍アントロポゾフィー部門」*2で取上げられていますが、その普遍的・人間的特徴を標榜するゆえ、個々の目下のところ10の各部門と密接な関係をもっています。
*2 普遍アントロポゾフィー部門については、日本アントロポゾフィー協会〔再建〕会報アントロポゾフィア2008年5-6月号p6を参照ください。

普遍アントロポゾフィー協会の理事と、自由大学の各部門の責任者との協働をとおして、1990年代から規則的に開催される大学コレギウム(評議会)がゲーテアヌムで展開され、2000年以降、大学のための指導責任を保持しています。大学コレギウムのなかで、(協会 の)理事は普遍アントロポゾフィー部門の指導と発展、またこの枠内において第一クラス の仕事の調整の委託を受けています。精神科学自由大学は今日、分節された課題領域を携 えて、コレギウムによって指導された、世界に広がる仕事のつながりをもっています*3。 ルドルフ・シュタイナーが第一クラスにおける19回のエソテリックな指導時間に添えたマ ントラの秘儀参入の道は、大学での仕事のための共有すべき精神的基盤を形成しています。
*3大学コレギウムメンバー(2008年時点):普遍アントロポゾフィー部門;ヴァージニア・シース、ハインツ・ツィンマーマン、パウル・マッカイ、ボドー・フォン・プラトー、セルゲ O・プロコフィエフ、コ ルネリアス・ピーツナー、セイヤ・ツィンマーマン/ 自然科学部門;ヨハネス・キュール/ 数学・天文 学部門;オリヴァー・コンラート/ 医学部門;ミヒャエラ・グレックラー/ 教育部門;クリストフ・ ヴィーヒェルト/ 音楽朗唱芸術部門;マルガレーテ・ソルスタット/ 美学部門;マルティナ・マリア・ サム /農学部門:ニコライ・フックス /青年部門;エリザベト・ヴィルシンク /社会科学部門;パウル・マッカイ /造形芸術部門;ウルズラ・グルーバー

大学の設立時の関心事として、いつも新たに様々に異なるアントロポゾフィー運動の視点 を擁護し、統合していくことを保証するという課題が特に認識されます。霊的自己規定、 瞑想の実践、社会的責務、社会参加が現実生活のなかでいつも崩壊の危機にさらされてい ます。大学に於いてはそれらがいつも新たに互いに結びつきをもとうと意識されています。 加えて精神科学自由大学は、霊的な力の発展によって時代の要請に応えたいと願う人間の 出会いと協働を可能にしています。アントロポゾフィーの様々な機関における今日の生活 と特に仕事は、共有する精神的深化によって生ずる信頼を一層必要としているのです。

2008年5-6月号から2010年5-6月号にかけて、11の部門活動が掲載されています。今回はその続編になります。

出典:
Die Freie Hochschule für Geisteswissenschaft Goetheanum, Zur Orientierung und Einführung, 2008 Dornach, S. 23-30
翻訳:石川 恒夫