邦訳資料
精神科学自由大学のエソテリックな構成 – 前半
出典:Die Freie Hochschule für Geisteswissenschaft Goetheanum, Zur Orientierung und Einführung, 2008, Dornach S.117-122
翻訳:石川恒夫
精神科学自由大学のエソテリックな構成 ‒ 前半
ミヒャエラ・グレックラー
Michaela Glöckler
設立の意図
本書でその基本的特性について描写された精神科学自由大学の課題は、ルドルフ・ シュタイナーによって知覚された19世紀最後の三分の一の「荒れた物質主義の高 まり」への精神的な打ち込みの内にその源泉をもっています。「それは敏感な情緒の理解をもつ人が精神生活の諸力から受け取ることができる、 精神的なものの啓示です。精神の啓示が人類のために開かれました。そして地上的 な恣意からではなく、精神界からの近代の啓示として、人類の精神生活のために生 じてきた偉大な映像を見ることによって、そこからアントロポゾフィー運動は、そ の全体において、その全ての細部において、神々の、神の勤め(ミサ聖祭)です。 そして私たちが、それをその全体においてこのような神の勤め(ミサ聖祭)として 見るとき、私たちはそれに対する正しい気分に出会います。」(ルドルフ・シュタ イナー『普遍アントロポゾフィー協会設立のためのクリスマス会議』開会講演 1 923年12月24日:上松佑二訳)ルドルフ・シュタイナーはクリスマス会議の開会講演において、この精神的な打ち 込みついて、この近代の啓示について語り、希望をもって講演を閉じました。 「このアントロポゾフィー運動は、それに身を捧げるそれぞれの個人の魂を精神界 におけるあらゆる人間的なものの源泉と結び付けようとすることを、このアントロ ポゾフィー運動は、人間を地球の人類の発展の中で、当分満足すべき、あの最後の 開悟へと導こうとすることを、私たちの心の中に深く書き留めたいと思います。そ の開悟は、始まった啓示について、私たちは人間として、地上において神に望まれ た人間として、宇宙において神に望まれた人間として存在している、という言葉に 包まれるものです。」(同掲書)ルドルフ・シュタイナーはクリスマス会議について言及した最後の講演(1924 年9月5日)において、この希望を強く語りました。「私たちは適切な霊的なもの を、精神界において近代に発展し、地上生において生き続けるあろう精神的な運動 を、私たち人間が霊的運動に忠実であり続けることが出来るとき、私たちがアントロポゾフィー協会に属しているということを、認めることができなければなりませ ん。」 ルドルフ・シュタイナーは部門代表者に「アントロポゾフィー運動はなんらかの 支部(枝)を導くように」と課題を与えています。自由大学のコレギウム全体には、 この霊的運動とその育成をめぐる配慮への義務があります。つまり個々の職能とそ の生活領域における神々への勤めのような性格をつくりだす課題が生じます。それ よって一方ではアントロポゾフィー協会の生命は必要とされる衝動を獲得すること ができます。他方、時代に即した文化生活はそれによって命を吹き込まれ、その発 展が促されることでしょう。
敷居の状況と文化を治療する課題
人類が全体として20世紀への転換以来、精神界への敷居を超えたという事実はい かに顧慮されうるのでしょうか。世界の情勢は、個々の人間がこの事実を意識する ことができなければ、悲劇が悲劇を呼ぶことをますますはっきり示しています。職 業生活、社会生活においてこの敷居の意識を育成することは、個々人が人生に意味 と方向性を与えることによって、発展の関係に対する個々人の責任という感情を目 覚めさせます。その場合しかし多くのことも顕わにされます。意識的に精神界への 敷居に近づくことは快適なものでは全くなく、心地よいことではありません。もし このことが誠実に生じるならば、幻想はおのずと崩れ落ち、ベールは引き裂かれる でしょう。自己の存在においても、他者の存在においてよりも深い層からの直接的 な知覚が生じます。 個々が意識的に敷居を超えてゆくための準備として三つの決定的な歩みが、エソテ リックな伝統において火の試練、水の試練、大気の試練と呼ばれています。 誠実な自己認識と世界認識の火によって、自己と他者を無意識に不愉快な真実から 守ろうとする自己欺瞞が焼け落ちます。自己や他者に対する大きな失望の結果生じ る信頼関係の 危機において、人は水の試練の質を体験します。それと共に結ばれた深い不安感に、 また評価や支援や内外の励ましという道筋を壊してしまうことに直面するとき、行 為への根拠を、問題となる事柄の内からひたすら見出す時にのみ人は健全に自己を さらに発展させることができるでしょう。個人的な共感はそのとき沈黙し、沈黙し なければなりません。事柄の内にのみその根拠をもつ行為への愛が耐えるのです。 それがたとえ「不安定」なものであったとしても。大気の試練の質はそれに対して、 現代人が文化的に創造的に振舞い、癒すような行動をしようとするとき、特に必要 とされる能力です。そのためには真実性(火の試練のプロセス)の教育、愛の力(水の試練のプロセス)の育成だけが必要とされるのではありません。特に「道徳的な 直観」(自由の哲学)の力が求められます。つまりそれは状況から正しい判断をす る能力です。加えて勇気と寛容な態度と無条件の自由への愛が必要です。これらは 社会生活が万人にとって発展する場になるための特性です。同時に敷居を意識的に 超えてゆくことを可能にする力です。
社会的参加と人類の発展
ここで描き出された自由大学のコンセプトはアントロポゾフィー協会との恊働にとっ て、そして公的生活の只中に立つ上でどのような結果をもたらすのでしょうか。社 会有機体の三つの分節という生活の必然性からこのことが極めて印象的なありかた で示されます。 精神生活の領域では、個々人の社会参加と精神的な事業家気質の促進が必要です。 法的領域においては明快な取り決めの構造が必要であり、そこに関わる人の可能性 と作業形式を熟慮し、意識的に最善のものにすることが必要です。経済的・社会的 領域では個々人が個人の才能と能力とを通して持ち込むことができるものを認める 文化が特に必要です。そうすればもともと社会生活において困難なこともうまくゆ き、その実りを示すこともできるでしょう。つまり、個々人の参加と恊働への意志 から可能になる文化衝動の共働の代表です。そのためにはこの共同体形成のための 考えられる三つの形式を意識的に擁護することが必要です。そのことをルドルフ・ シュタイナーは1923年12月27日のクリスマス会議のコンテクストにおける スケッチによって明示しました。
ルドルフ・シュタイナーは一番下に「普遍アントロポゾフィー協会」を省略して記 し、その上に三つのラテン語の数字(I II III)が水平線で分節されています。 その数字は精神科学自由大学の三つのクラスを意味しています。垂直線の部門につ いてシュタイナーは、部門の仕事のあり方やその作用の意図は水平にイメージする べきでなく、それぞれのクラスと交わりながら垂直に考えるべきであると語りまし た。そこから見てとれるのは、部門活動にとって問題なのは文化衝動であり、精神 界から直接的現実的な生活に垂直に流れ込むものであるということです。部門の仕 事は、精神から研究されるところで、生活において起こるものです。勿論アントロ ポゾフィー協会の会員ではない、また自由大学の会員ではない、しかしこの垂直の インパルスのために仕事をする恊働者もいるでしょう。 この垂直線がアントロポゾフィー協会を超えて下に向って開放されていること、い わば実生活に届いていくということ、他方で第3番目のクラスを超えて上方にも開 かれているということは一考に値するでしょう。 アントロポゾフィー協会のなかでの共同体形成のフォルムは、ひたすら個々人のイ ニシアティブ ‒ あるグループにつながろう、あるいは自らそのようなグループをそ の土地や専門分野において組織しようとする個々人の自由なイニシアティブによっ て構築されているように、自由大学における共同体形成のあり方は、共有の意志に 向きあいながら「自己にふさわしい行為」が目標です。つまり自分自身の意志を他 者の「姉妹、兄弟の」 – ルドルフ・シュタイナーはクラッセン・シュトゥンデにお いて自由大学の会員に何度も呼びかけているように ‒ の意志と調和させることです。 そうしてのみ、イニシエーションの衝動を現実生活において効果あるものにするこ とができるような、世界を包括する作業共同体は生まれるでしょう。自由大学の会 員のための三つの条件※1はそのさい道徳的な装備として、エソテリックな共同体 形成への道の途上での決定的な助けとして示されるでしょう。 部門の関係における共同体形成に関して、垂直性の次元に次のものが加わります。 生活共同体と研究共同体が問題であり、誰もが自己の個人的能力と、第一クラスの 学びの関係において訓練された兄弟のような能力をそれぞれの職業参加へもたらす ことです。この場合部門活動にとってそれぞれの生活領域における問題提起や作業 の必然性の直接的な知覚が不可欠です。しかしまた垂直線の志向によるより高次な 領域からのインスピレーション(霊感)も必要です。それはつまり第二もしくは第 三クラスの本質に由来する、質と仕事の可能性についての問いなのです。
※1「II精神科学自由大学とアントロポゾフィー運動」アントロポゾフィア20 11年1-2月号、「III精神科学自由大学」アントロポゾフィア2012年5-6月号、「IV精神科学自由大学 会員になること-学び-コンタクト」アントロポゾ フィア2012年11-12月号を参照ください。
出典:
Die Freie Hochschule für Geisteswissenschaft Goetheanum, Zur Orientierung und Einführung, 2008, Dornach S.117-122
翻訳:石川恒夫