Ⅳ 精神科学自由大学の諸部門/医学部門

出典:Die Freie Hochschule für Geisteswissenschaft Goetheanum, Zur Orientierung und Einführung, 2008 Dornach, S.67-71

訳:石川恒夫

医学部門
Medizinische Sektion

ミヒャエラ・グレックラー
Michaela Glöckler

「いにしえの時代、
秘儀参入者の魂には ある思想が力強く生きていた。
誰もが 生れつき病んでいるという思想が。
そして教育は 治療のプロセスとみなされた
それは成熟と共に子どもに
健康をもたらした
人生の完成された人間存在のために。」*1

「境界において
感覚の暗闇と精神の明るさが
眩惑のなかで互いに混ざり合う。
この眩惑の写しが
病であり病のうちに守護者が生きている。
精神において意識的に出会い
肉体において無意識に出会う。」*2

*1:Rudolf Steiner: aus dem 1. Rundbrief für Ärzte vom 11.März 1924, in [Meditative Betrachtungen und Anleitungen zur Vertiefung der Heilkunst], GA 316
*2:Rudolf Steiner: Januar 1924, Notizbuch, in ≪Mantrische Sprüche, Seelenübungen II≫, GA 268

アントロポゾフィーを現実的・学問的医学及びその実践に統合し、そこから「アントロポ ゾフィーの医学的体系」を構築することが医学部門の課題である。この体系において、疾 病の精神的側面は、これが「精神生活の物質的イマジネーション」として現れるよう理解 される、つまり、境界の守護者との無意識的な出会いとして。それに対して健康は、教育 と自己教育のプロセスの成果として示され、人生と自分の発展の目標を方向づける。 アントロポゾフィー医学の設立者であり、医学部門の初代代表である医学博士イタ・ ヴェークマンとルドルフ・シュタイナーによって共同執筆された『精神科学的な諸認識に よる治療芸術の拡大のための基盤』(1925、GA27)において、二人の著者はアントロポ ゾフィー医学の探求の基礎のみならず、教育と治療実践のための道をも指し示した。そこ で展開された医学的な人間学は、人間の生命の二重の本性、つまり人間の魂と精神という 本性を、一方では人間の魂と精神の発展のあるものが肉体のプロセスにおける物質形成と 変容といかに具体的に関わりあっているか、他方、医薬品の調合がいかに、その固有の製 造プロセスによって、「自然を、人間への道へ」もたらすことができるかが、明らかにな ることを記述している。薬剤師の作業をとおして、この薬の効き方は、人間の有機体で生 じているプロセスと類似のものとなる。それは健康と病の連続に影響を及ぼすものである。
アーレスハイムにイタ・ヴェーグマンによって、1921年にシュトウットガルトにオッ トー・パルマー医学博士によってそれぞれ誕生した最初の治療研究所の設立以来、アント ロポゾフィー医学は今日、全ての大陸、およそ60カ国に見られる。そこでの、この喜ばし い発展は、医者の領域のみならず、看護、薬剤、心理セラピー、治療教育、芸術療法、治 療オイリュトミーなどにも見られるのである。現在、それにつながる医学の広がりはしか し、だからこそ初めて深刻な危機にさらされている。というのも、経済的な圧力と保健制 度における規制が強化されているために、地位の保全と可能な更なる発展のチャンスが脅 かされているからである。ここでアントロポゾフィー医学は、他の補足的・代替的な医学 的方向と運命を分かち合い、健康政策的、政治的領域で、他の代替医学とともに仕事をす ることになる。
医学部門において1989年以来、協働する専門家のための世界を横断するネットワークが つくられた:アントロポゾフィー医学の国際協調(IKAM)である。ここで仕事をして いる個々の職業領域のコーディネーターは、社会有機体のそれぞれ三つの領域に及ぶ。即ち:
精神の領域において、IKAMは研究内容と諸成果を守り、アントロポゾフィーの 職業資格の証明のための判断基準の発展と同調に貢献する(例:アントロポゾフィー の医者、治療オイリュトミスト)。
職の公正な権利と政治的領域において、IKAMは教育と職業実践の法的保護のた めに活動し、また常により必要なものとなる倫理的基礎に立って仕事をする。
経済・社会の領域において、IKAMはふさわしいグループ代表と公共とのコミュ ニケーションのために配慮する。
その場合、明瞭な意識がIKAMのコレギウムには生きている。つまり、今日、社会有機 体はより病んだ状態にあり、アントロポゾフィー医学はここでも貢献することができる、 と。 アントロポゾフィー医学の機関が据える課題は、細かい点においても健やかな、つまり、 三分節された社会有機体組織を構築すること、もしくは発展途上のものを促進することに ある。これは精神的には自由な企業のイニシアチブを意味しており、法的にはパートナー と申し合わせをしたり、信頼のできる約束を支えうる文化において、一貫した仕事を意味 し、経済的―社会的な領域においては、「この機関に公正なものを見るがゆえに」自由に 用立てたり、特定のプロジェクトの支援のためという目的につながる融資の方法を持つ仕 事を意味している。

仕事の展望

来たる年には5つの重点課題があげられる。
アントロポゾフィー医学の精神的基盤を固めること。
基本文献から高度な精神科学的、自然科学的レベルへ向かう作業
基礎研究及び疾病特有の研究の促進(個々の事例研究、グループの比較研究、成果の研究)。
大学研究室及び堅実な経済支援をもつ地域の研究機関を含めた研究文化の構築。
非ヨーロッパ文化圏を含めた、さらなる養成の展開。
アントロポゾフィー医学の基本文献の世界中の言語への翻訳促進
公開作業及び「成人患者」及び「健全なる保健制度」の発展の支援
加えて、クリニック(大学付属病院)を経済的に安定したものにすること、というのもそれらの機関がなければアントロポゾフィー医学はさらなる発展も望めないからであり、同様に、特に薬事法が自己制定されるヨーロッパにおいて、経済的に医薬品の法的基盤の形 成のために努力することである。 大学全体を見ると、医学部門は現代の社会生活において、中心的な立場にある。「なぜ 人は病気になるのか?」という問いは、現代人の核心的問いであろう。病理的、治療学的 な問題設定が反映されない社会生活の領域は存在しない。現代文化における多くは、病ん でおり:不確かさ、不安、アイディンティーの問題、薬品乱用や暴力のかたちを取った限 界の突破、魂的にも肉体的にもこれらのことが生活感情を規定し、少なからず日常をかた ちづくっている。だからこそ、健康の源泉の解明は、肉体的のみならず、特に魂的、精神 的領域でも必要なのである。従って、医学部門の課題は、治療的視点を、他の専門部門の 作用にも求め、光を当て、共働の形を促進することにあり、その中で、個々の人間は、た だ健康に発展するのみならず、健康を維持することもできるのである。

基本文献
Rudolf Steiner: Gundlegendes für eine Erweiterung der Heilkunst nach geisteswissenschaftlichen Erkenntnissen, GA27 Rudolf Steiner: Vorträge zur Medizin, GA312-319 Rudolf Steiner: Das Initiatenbewusstsein, GA243

出典:
Die Freie Hochschule für Geisteswissenschaft Goetheanum, Zur Orientierung und Einführung, 2008 Dornach, S.67-71
翻訳:石川 恒夫