Ⅳ 精神科学自由大学の諸部門/朗唱・音楽芸術部門

出典:Die Freie Hochschule für Geisteswissenschaft Goetheanum, Zur Orientierung und Einführung, 2008 Dornach, S.79-82

訳:石川恒夫

朗唱・音楽芸術部門
Sektion für Redende und Musizierende Künste

ヴェルナー・バルフォード
Werner Barford

私たちの部門は表現芸術、つまり時間芸術であるオイリュトミー、言語造形、演劇、音楽、 人形劇を包括するものです。その中でもオイリュトミーはルドルフ・シュタイナーの時代 の精神から新たに発意された芸術であり、「秘められた自然法則の現われ」(ゲーテ)で あり、芸術であると同時に学問であり、宗教でもあります。「我々の目にする人間は、完 成されたフォルムである。この完成されたフォルムはしかし、自ら形成する、そして溶解 する原フォルムから生まれでた。(中略)神がオイリュトミーする。そして神がオイリュ トミーをすることで、オイリュトミーされた結果として、人間の形姿は生まれるのだ。」 オイリュトミーへの道は、この背景に基づいて、新たに創造されるべき一つの文化への 道です。それは、イニシエーションの意識から生まれてきた芸術を発展させるために、現 代の芸術家が個人的な自我を変革しなければならないこと、その職能の道を秘儀参入の道 としてとらえることを学ばなければならないことを意味しています。今から100年前、ルド ルフ・シュタイナーの芸術衝動は、その詩作において、演劇において、彫刻において、オ イリュトミーにおいて、第一ゲーテアヌム(「ことばの家」)の造形において見えるもの にされ始めました。全人間は芸術をとおして(自らを)明らかにするべきなのです:動き、 ことば、音楽としての包括的な意味における「言葉の存在としての人間」(シュタイナー) を。1923年のクリスマス会議にルドルフ・シュタイナーは普遍アントロポゾフィー協会と、 諸部門からなる精神科学自由大学を設立しました。マリー・シュタイナーは理事のほかに、 朗唱・音楽芸術部門の代表も引き受けました。1903年からすでに、彼女は朗唱芸術をルド ルフ・シュタイナーのテオゾフィー・アントロポゾフィーの仕事の中へもたらしていたか らです。その有能な、実行力をもった導きをとおして、ことばの芸術とオイリュトミーは 短期間に花開くように発展しました。マリー・シュタイナーは1948年クリスマスの彼女の 死まで部門代表を担っていました。

芸術の霊的源泉を自覚すること

私たちはこうして新しい要請からまもなく100年という節目を迎えようとしています。 それぞれの霊的衝動は70~80年という時を経て、生命を再生すべく、新たな仕事の方法を 必要としています。そこに従事する人間は、基礎的事柄を積極的にとらえつつ、自らの力で芸術の霊的源泉を発見しなければなりません。そのためには、集中した人間学的な探求 と、芸術への理解を深める協働が求められており、時代に即した学生の要求と、達成され るべき職業的な目標に応じた養成における新たな道が必要です。 このことは、またオイリュトミー、音楽、ことばのそれぞれの芸術が共に強く働きかけ あうことをとおしてあらわれます。これらの芸術は、精神的―魂的存在としての人間に語 りかける「境界」の芸術として、魂的-精神的な芸術手段をとおして働きかける課題をもっ ています。 部門はまた養成機関とともに、時代や若人や職能の世界の要請を満足させるように、新 たな仕事の方法と目標を授けるよう努めています。これはまた授業の方法を通して、専門 家としての自立性、芸術的手段を深く理解すること、経営的・社会的能力を育むことを意 味しています。それは学生にとって、その芸術において、魂的-精神的なものとともに、 職業生活との結びつきが得られるようにすることでもあります。様々な職業の方向をもっ た部門のなかにあって、学生たちが展開された職業的イメージを、現実に即して実践でき るよう、修業方法のコンセプトが練られています。 全ての、様々な職業領域で活動している、そしてその基礎をルドルフ・シュタイナーの 芸術衝動においている全ての人々との出会いの場は、大切に育まれています。その場合、 オイリュトミーのメディテーションと定礎のことばのエソテリックな源泉が導き手となり ます。精神科学自由大学第一クラスのマントラの道は、方向付けと力と守りとして、共同 作業の核を形成します。光の形姿としてのエーテル体は、あらゆる行為のための基礎を形 成します。この場合、未来のための課題が見出されます。すなわち、全人間を生命体、魂、 自我をオイリュトミー芸術の中で明らかにさせることです。 ルドルフ・シュタイナーは、予防、サルートゲネーゼ(健康創生論)、そしてあらゆる 形式をもつ芸術をとおして、人間の進化のために、健全化の諸力を強化しようとする中部 ヨーロッパの課題を、「衛生的なオクルト主義」と名づけています。このことも部門への 要請といえるでしょう。ただ舞台芸術としての芸術、教育における芸術、そして治療のた めのみならず、社会的な職業領域にも気を配ることなのです。自立と確かさをもって、い かなる状況にあっても、芸術手段から振舞うことができる能力は、基礎修業によって育ま れ、職業のもつ特殊な要請に応じて展開されなければなりません。 人間学を踏まえたオイリュトミーの芸術手段の徹底と拡充、そして魂と自我の基礎の上 に基づく新たに展開される芸術手段についての研究作業は、すでに多くの年月を経ており、 その作業方法と成果は、セミナーや講演などで多くの人々の信を得ています。

協働のための器官

四つのパートそれぞれに一つの部門クライスが、部門の器官に属しており、研究課題を 把握しています。パートである音楽、言語造形、人形劇はそれぞれ一人のスタッフをもっ ています(財政的な制限をうけて)。オイリュトミーの研究のために、部門アドバイザー のクライスが基本的な修業の問題に共に取り組んでいます。 基礎修業における職業の能力改善の問題、就職したての人のための助言のネットワーク 形成、教育オイリュトミーと治療オイリュトミーのための委任グループがあります。そして教育者、実務に即した修業年のための研究コースもあります。年に2回、教育者のため の講座があり、それに続けて教育者の世界会議が開催されています。近年においては専門 家養成の方法が変わり、オイリュトミーや言語造形のディプロム(卒業)取得や職能に多 くの注意が払われました。オイリュトミー委員会や言語造形のためのイニシアチブ・グルー プは、ヴァルドルフ学校連盟とともに仕事をしています。 それぞれのパートは毎年、専門会議を開催して、部門はその準備をしています。加えて 部門を横断した会議や、オイリュトミー学校の最終学年生の出会い「オリンピアーデ」も 開催されています。 数多くのセミナーや講座が、各国から部門に対して要請されており、それらの諸国での 会議もともにつくります。ゲーテアヌム・ビューネ(舞台)との密接な協働も育まれてい ます。来るべき年の展望は、近年あらゆるレベルで未来の課題が作業され、実りあるプロ セスと発展が目立ち、希望に満ちています。 年に2回発刊される部門報告(ルントブリーフ)は研究作業、テーマ、報告のほかに、上 述した事柄の生き生きとしたレポートを含んでいます。

1)2007年秋にオイリュトミスティン、マルガレーテ・ゾルスタートが、ヴェルナー・バルフォードか ら部門代表を受け継いでいる。

文献:
Rudolf Steiner: Vorträge über Eurythmie, GA277-279 Rudolf Steiner: Sprachgestaltung unf Dramatische Kunst, GA280-282 Rudolf Steiner: Das Wesen des Musikalischen und das Tonerlebnis im Menschen, GA283

出典:
Die Freie Hochschule für Geisteswissenschaft Goetheanum, Zur Orientierung und Einführung, 2008 Dornach, S. 79-82
翻訳:石川 恒夫